きものを着ている人はかなり少ない。一部に和装愛好家がいるものの、きものを日常生活で着るのはかなりハードルが高いし、そもそも現代社会は洋装を基準に作られているから、生活様式としてなじまないのは当然である。
ではきものは不要かといえば、そうでもない。型が大きく違う分、服装としても性質が変わってくるのだ。洋装と比べて和装は何がいいのか?あまり取り立てて説明されてこなかったこの疑問について、今回は答えていこう。
体のシルエットが目立たない
全てとは言わないが、洋装には体のシルエットを活用したものが多い。洋服が入ってきたときに「ぴっちりした服装が欧州式個人主義の象徴だった」などと評されていた本を読んだことがあるが(どこに書いてあったかは忘れた)、これは依然として大きな違いとして、和装と洋装の間に横たわっている。洋装のこの特徴については、オフショルや、胸元の下が開いている服を想像していただけるとわかりやすい。

一方で、あまり体を出したくない人もいる。和装はそんな人に合っている。きものは基本的に、人によって特殊な仕立てをしない。作るものによってさまざまな形のパーツを作り、立体的に仕上げる洋裁と異なり、和裁は長方形のパーツを組み合わせる。仕立てからして平面的だから、体のシルエットが出づらいのである。この仕立ての特徴が、最終的に余りを小物にしたり小道具にしたり、リメイクがしやすい利点にもなる。
大和撫子は和装が似合う……との謂いを聞いたことがある人もいると思うが、これは和装の場合、上記の理由で、自己主張が激しくならないことに起因する。と思う。体のラインを強調した派手な服装は、和装では難しいのである。

柄自体の表現力が高い
「外見は内面の一番外側」との言葉がある。実際、ファッションは自己表現の手段として使われている。和装では派手な服装が難しい、ならば派手な表現も無理か?といえば否だ。布の面積が大きい分、柄の表現力が高いのが和装の強みといってよい。
洋装の場合、使える面積がそもそも少ないから、この部分では和装に大きな分がある。芸者さんや、普通の人が晴れ着で着る振袖も、袖の面積が広い分、訪問着と比べて表現力に差が出ている。付言すると、きものにはすでに固定化されたイメージがあるから、洋装では絶対に使えないような柄でも使いやすい事情もある。
柄の表現力には、単に絵画的な表現の延長として理解してもいいが、柄にはそれぞれ文化的な背景があり、さらに着用者それぞれが付与する特殊な意味合いも乗ることに留意すべきだ。キャンバスの広さから生まれる柄の表現力が、センスに裏打ちされて、トータル・コーディネート的なストーリー描写力を生む土壌となっている。

文化資本のアピールになる
きもののメリットといって、まず思いつくのがこれかもしれない。まずきものは相場からして価格が高いから、当然、ある程度上流でないと買えないと考えられている。実際は買うか買わないかの違いでしかないと思うが、世間的な認識としてはそうだ。
無地が普通で型も決まっていて、表現の場といえばネクタイやスカーフくらいな洋装と違って、和装は柄があるのが普通といってよい。それに多品種少量生産が普通だから、あまり奇抜な柄でない限り、そして式典のようなドレスコードが決まっている場所でない限り、フォーマルシーンでの遊びの幅が広い。
だからこそ文化資本のアピールになるのである。過去に「センスのいいものに囲まれよう」で紹介した通り、センスの良さとは「自分の置かれている立場を表し」「ストーリーの中に組み込む」ことであって、柄はストーリーを表す最もわかりやすいツールになる。とはいえ、どのような柄がどのように理解されていて、それを踏まえてどのような意味合いを持たせるかについては、完全にセンスの問題である。完全に知的遊戯の域に入っており、万人向けとは言えない。だからこそ文化資本の証明になるのであるが。(「この柄のきものはこの場面で着られる」といった、販売現場での着装の指導は、この部分を自分で判断できない人に向けたサービスと言ってもいい。完全にバカ向けの商売である)
組み合わせにセンスが出る
きものというキャンバスでの表現は、独りきものだけで完結するものではない。帯と周りの小物(衿や紐、帯揚げなど)とも組み合わせて、総合的に作り上げるものだ。特に帯は着装の要であって、帯ときものの組み合わせがセンスを表現すると言ってもよい。
着装のセンスは奥が深い。先に述べたような、状況やストーリーに合わせた柄を選んで特別な意味合いを持たせるのは、最もわかりやすい例だ。それ以外にも、綴れ織、絽や紗などの捩り織(御簾などに使われる、いわゆるスケスケの組織だ)、天鵞絨(ビロード)織といった織法による区別があり、正絹や麻、そのほか混紡糸や紬糸(つむぎいと)、御召緯(おめしぬき)、金銀糸、真珠箔などの素材の違いがあり、手描き友禅や型友禅、鹿の子絞り、草木染といった染織技法による違いもある。言ってみれば千差万別であり、それぞれ固有の特徴や演出効果がある。これに柄の違いが加わり、もちろん実用上の違いもある。

組み合わせはまさしく無限大であって、したがって表現の幅も無限大なのだ。さらに最初に述べたように、和装は体のシルエットがあまり目立たず、つまり個人差が出づらい。ともすれば、人によって似あうコーディネートが固定化されがちな洋装と違って、和装のコーディネートは多くの人に開かれている。まさにファッションの楽園なのである。
フォーマル着として使える
これは実用上の理由としてよく言われるものでもある。ただファッションが楽しいと話すだけでは、買う理由として薄いと考える人もいるだろう。もちろん単に娯楽用途だけではない。
きものはフォーマル着として広く使われていることで知られる。海外ではきものはフォーマル着で通用すると聞くし、マナー違反にならないから気楽でいいとの声もある。女性はあまりスーツが似合わない傾向にあるように思うから、女性の場合はきものでの出席の方が見栄えもして良いだろう。もちろん男でも見栄えはするのだが、そもそもきものを持っている男が少なく、スーツでの出席がほとんどである問題がある。これは呉服業界の課題の一つだ。
(宣伝)西陣織会館でファミリーセールやるから来てね
さて西陣織会館で今度、ファミリーセールが開催される。一応招待制をとっているので、来る人は招待券をお持ちいただきたい。招待券は西陣織工業組合ホームページ内のこのページから申し込める。
手前味噌にはなるが、ファミリーセールでメーカー直販のイベントだから、他と比べてかなり安くなっている。一般小売価格の3割引き位のものも珍しくないほどで、もちろん品質は西陣だ。きものデビューに最適なイベントだと自負しているから、ぜひ来てくれると嬉しい。(著者も会場にいます)




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