組織が大きくなればなるほど、自分の裁量で自由自在というわけにはいきません。なるほど確かに、オーナー社長の鶴の一声で事が決まる大企業もあります。しかしよく見てみると、これも組織の論理に忠実な現象なのです。そして組織の論理とは、いかに合意を取るかに終始します。
今回はこの合意について見てみます。組織で立ち回る大きな参考になると思います。事務方を想定して書いていますが、他の職種でも役に立つ話ではあるはずです。

規則は合意の集合体だ
組織の大きさはステークホルダーの人数に比例します。例えば住民全てがステークホルダーとなる公務員は、巨大組織の典型と言ってよいでしょう。
公務員の仕事は、よく「お役所仕事」と揶揄されます。規則に厳格で融通が利かないことを指しますが、これは「合意」と規則の関係を整理すれば明快です。
そもそも規則とは、あらかじめ合意した事柄の集合体です。適切に守っている限りで、「ここまでは文句言いっこなし」と決めたのが規則です。つまり規則とは、合意より上位にあるものでなく、むしろ合意の方が上位にあるのです。普段は規則が合意を代表し、二つに差が生まれたら、規則が改正されます。
行政は、規則を変えるのに関係するすべての事業所等々にヒアリングし、議員などが議案を提出して、議会で承認を得て、首長が公布するものと聞いています。規則の制定プロセスが強固で、多少の住民が異を唱えたとて、到底合意は取り切れないのです。だから大っぴらに融通を利かせるわけにいかないし、規則に厳格にならざるを得ないのです。
一方で公務員のような巨大組織にいない限り、規則の固持は実はあまり意味がありません。多数決の原理でいくらでもひっくり返せるのです。関係者が少なく、規則を守って生まれる利益と損失、破って生まれる利益と損失とを勘案して、柔軟に物事を進める必要があります。

「合意」とは?
JTC(Japanese Traditional Company:伝統的日本企業)のハンコリレーはよく揶揄の対象になります。無駄の象徴とも言われがちなこの風習は、決裁権者すべての合意を取る過程である、と考えれば明快です。
現在の日本はほとんどの場所で議会制民主主義が採用されています。国は国会を、県は県会を、市は市会を、株式会社は取締役会を通さなければ、組織を動かせないことになっています。イギリスの議会制民主主義を指す言葉に「王は君臨すれども統治せず(King reigns, but does not govern.)」との言葉がありますが、これは「朕は国家なり(L’État, c’est moi)」と言われるような絶対王政に対し、議会に実権がある状況を指します。
合意を得ておくと判断の責任が分散されます。一人の独断専行で進めると、問題があったときに全責任が降りかかってきます。後々トラブルになったときのため、内々で進めるだけでなくて、できるだけ広い範囲の人を巻きこんでおいた方が、仮に裏切られたときリカバリーが効きやすいのです。

だれに合意を取るべきか?
あらかじめ関係各所に話を通しておき、賛意を確認しておくのが、いわゆる根回しです。会議の前に根回しを済ませて、会議本番ではシャンシャンで終わらせる──これが綺麗な会議のお作法とされますが、ではいったい誰を巻き込むべきか?
組織によって違いますが、まず最初に話を通しておくべきは上長です。普通は決裁フローの中に組み込まれていますが、上長やさらに上、上……と必要なだけ話を通しておけば、それだけ話は早いです。直接話せるかの問題もありますが。上長が話のわからない人なら、さらにその上に内々で話を通しておき、上から無理やり通す裏技もあります。
決裁フローだけでなくて、実行の上でネックになりうる場所があれば、そこにもあらかじめ話を通しておく必要があります。外注先が決まっているならそこに話を通しておくべきです。決裁がおりて実行する段になってから、やっぱりできませんでした、では話になりません。

他人の合意でショートカットする
反対しそうな人を飛び越えて他の人にあらかじめ合意をとっておき、反対しそうな人に対して「○○さんもこう言ってましたよ」で黙らせる技があります。
先ほどチラっと書いた裏技がこれです。本当に全体のためになる提案だと確信が持てて、その人を納得させられるならよいでしょう。最終的に決裁権者の全員の合意が取れれば何でもいいのです。とはいえ、そのためには普段から関係を作っておかなければなりませんし、ちゃんと説得できる材料も必要ですから、そう簡単な話ではないわけですが。
なおこうした力業は、仮に失敗したときのリスクが大きいので注意が必要です。
手続きを守らなければ責任問題になる
合意を取る話をしてきましたが、さらにその先、手続きの重要性も無視できません。
決裁を取るのが面倒だからと、手続きを踏まずに個人の判断で進めたら……失敗したときの責任がすべて降りかかるのです。上席の人間を巻き込んでおけば、そっちの方が目立ちますから、必ずしも現場に責任は降りかからないかもしれません。だが責任問題から端を発して、組織の内部分裂も考えられます。最悪のケースを想定して、手続きをまじめに守るか、なるべく多くの人を巻き込むのがいいでしょう。

裏技を使うときは、合意が取れるか考えよう
世の中にはグレーゾーンがあります。ルールでは禁止されていないものの、多分やらない方が良いことがそれです。
グレーゾーンの中でも、場所によってやっていいことかどうか変わるのが、話を難しくしています。例えば大学で授業に潜ることを考えましょう。大学の授業は、普通、潜っても特に問題がありません。単位にはならないが、勉強するだけなら許されるでしょう。学外の人でも、潜ろうと思えば潜れます。一方で高校の授業はどうでしょうか?高校の授業は普通、クラス制で、決まった人が受けます。他の高校に侵入して、授業を受ける人などほとんどいないと言っていいでしょう。もちろん、許されないだろう。
この二者の違いは何でしょうか?ズバリ、合意が取れるかどうかです。どちらも指摘されれば諦めざるを得ないのは前提として、後で自分の行動が周りに知られたとき、周りからの信頼を失うかどうかは、合意が取れるかにかかっています。
合意が取れるかは、社会常識や状況など、所属するコミュニティの価値観に大きく左右されます。会社や学校に入ったら、まずは大人しくしておいて、他者理解に努めつつ、そのコミュニティの価値観を冷静に判断するのが賢明です。



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